2014年6月30日月曜日

ウクライナ式ナショナリズムという名の都市伝説(上編)

どうも、ご無沙汰しておりますぽんずです。



日本のテレビで翻訳をさせていただくたびに、
収入は入るが毎回のように悔しい思いをする。
自分に関係のないことだったらなんとは割り切れるけれど、
自国のことなのでムキになり、制作側の方々には
相当面倒くさい通訳さんと思われているに違いない。


最近悔しかったのは、ヤツェニューク首相の名字を
読み上げるたびに噛み、そもそもウクライナで何が起きているか
あまり把握されていなかったスタッフの方が、
「親ウクライナ活動家」と出たと単に、
「あっ、ヤロシとかですか?」と噛まずに言えていたこと。


ヤロシとは、いわゆる「右派セクター」党の党首で、
プッテレで大人気の人物。
2月の政権崩壊前から、プッテレはひたすら
「右派セクター」「ヤロシ」と並べ立て、
「ロシア語を話す人を殺しにくる人たち」だとか、
(当時の)「暫定政権に逆らう者を殺害する」とか、
とにかくウクライナ人至上主義者で、
排他的で怖い組織のダークリーダ、
その癖なぜかアメリカに魂を売った人物像を
見事にでっち上げていた。

そして何よりも、ウクライナで大人気で、基本
ウクライナ語を話したりウクライナ国旗を上げたりする人は
右派セクターの一員か、思い入れしているか、だと。

2月末クリミアで発生した「プーチンさん、助けて!」集会は、
暫定政権を応援しなかったクリミアに右派セクターが復讐しに来る
というプッテレのデマに洗脳されまくり
恐怖に怯えた人たちがほとんどだったという。

東部の親ロシア武装集団も、怪しいと思った人を捕まえては、
「右派セクターだろ!」「てめぇ、右派セクめ!」と本気で罵るよう。



で。

……大統領選に出馬したヤロシの結果はなんと、0.7%。

なんと素晴らしい支持率だろう。

(とはいっても、その誓約はまともなものだった。
ナショナリスティックな内容として取れるのは
「自国愛を育む環境作り」くらいで、
人種差別大反対でロシア系の私が見ても、
「ロシアにブラックPRさえされていなければな」と思う候補だった。)


ちなみにロシアの国営放送では、選挙日の夕方
「ヤロシ――37.7%で1位」と語る映像を流している。

キャスタが「ウクライナの中央選挙管理委員会のホームページには、
ヤロシが37.7%の投票をもってリードしているとの情報が現れました」と言い、
スクリーンショットらしきものを指している、というもの。

後にウクライナ保安庁が報告したことだが、選挙管理員会のHPには
ロシア国営が流した画面の通りになるようにする
ウイルスが仕込まれていたが、発覚され
ロシア国営放送の40分ほど前に除去されていた。
除去されたことがロシアに伝わらなかったために、
第一国営放送が見事な滑りっぷりを披露。
ポロシェンコが当選したことをどう説明したのだろう。


しかし、こんなことなど、日本人の手で翻訳され
日本をその毒に染めるロシアの国営放送や「ロシアの声」などが
分析し反省するわけがない。

だから、日本にも伝わらない。

惨敗したヤロシが未だ、当たり前のように
ウクライナ内の親ウクライナ派を動かす力として把握される。


ロシアは大国。
国外に向けた情報戦術を備えているし、
戦略もし、人材も投資も惜しまずに流し込む。
在日ロシア大使館のツイッターなんて
良くできた毒吐き機で余裕をこいた嘘発信機。
感心するわ。

そうでなくとも、ロシアの「その他」としてしか
見てもらえないウクライナは、なかなかまともに
そのやわな声に耳を傾けてもらえない。

ウクライナ大使館が「ウクライナのマスコミを全く取り上げず、
反ウクライナ・プロパガンダを垂れ流すロシアの国営放送を
衛星放送するのをやめていただきたい」とN○Kにかけあったところ
断られ、「ウクライナの国営放送を取り入れるから」と断られた。
確かに何回か取り入れてくれたけど、1~4分程度のもので、
ウクライナ大使館向けの誤魔化しとも言い難い、どうでもいい部分だった。
ロシアは大国。無視はできない。
それに引き換えウクライナは…。


ちなみに在日ウクライナ大使館は、
大使を含めて正規スタッフは5名。
ウクライナはとにかくお金がないので、
人事削減で5年前に比べると半減している。
通翻訳者は1名と、大忙し。
ウェブサイトの翻訳はほとんど有志のボランティア、
最近始まったフェイスブックやツイッターは
スタッフの家族が中心となって運営。
国はなぜ後せめてもう一人、日本語ができる人を
増やしてくれないないの? と尋ねると、
「今はほんっとにお金がないの。軍隊が最優先だし、
仕方がないよ」という。

だよ。


ウクライナには今、いろんな意味で余裕がないのだ。

だから、なかなか情報戦には勝てん。
ロシアのは、マシンだから。


非常にこれは、悔しい。


…本題から離れたのと、長くなりそうなので、次回に続く。

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